前歯差し歯の歯根が割れる、保存治療編
『前歯 割れる、前歯の根が割れた!保存治療できないの?』保存治療編:保存治療が望める歯と望めない歯とは、
「差し歯している前歯の根が割れた!どうしたらいいですか?抜歯しないとだめですか?保存治療はできないのでしょうか?」という患者様がよく来院されます。その質問にお答えします。
結論から言うと、治療法は2つです。
①抜歯してブリッジやインプラント、入れ歯をするか、
②保存してもう一度クラウンをする、
以上のどちらかです。
今回は『前歯の根が割れた症例に対する保存治療法』について説明します。前歯が割れてお困りの方のお力になれば幸いです。
最初に、前歯の歯根が割れる方の共通する特徴
①歯の神経を若年時に取っている。
②差し歯を何度かやりなおしている。
③差し歯の土台が太く、短い。(残存している歯が薄い)
④もともと前歯が前方に傾斜していて生えていた。
⑤今までに何度か転倒接触事故などで前歯ぶつけている。
⑥不良な差し歯が入っていた時期がある。
⑦前歯で強く噛んでいる。
以上が挙げられます。いくつか心あたりがあるのではないでしょうか、
さて、治療の話をしていきます。前述しましたが、前歯が割れたら抜歯か、保存か、の二者択一です。勿論、すべてが保存治療ができればいいのですが残念ながらそうはいきません。どこまで保存できるかどうかは歯科医師の技術と知識、経験によるところが大きいのですが、ほとんど(99%?)の歯科医が歯が割れてしまうと抜歯という診断をします。当院でも以前はそうでした。しかし、多くの割れた歯を保存できないか?という要望も多く、学会でも破折歯の保存症例の報告が出てくるようになったのもあり、2007年のマイクロスコープ導入時から破折歯の保存の試みしてきました。その結果、長期に保存ができている症例と上手くいかない症例を経験しました。その経験の結果は以下の通りです。
保存治療が成功している歯の特徴
①残存歯質のクオリティー(神経を取って間もない、感染が少なく硬い、変色が少ない)がいい
②残存歯質のボリューム(厚み、幅)が十分残っている
③破折部の感染が少ない
④破折線がシンプル
⑤破折線の方向が垂直的に入っている
⑥その歯にかかる力が弱い
保存治療が失敗している歯の特徴
①残存歯質のクオリティーが悪い(神経をとって大分経過している、感染が広がっている柔らかい、真っ黒に変色している)
②残存歯質のボリューム(厚み、幅)がない
③破折して大分時間が経過していて、そこに感染が起きている
④破折線が2本以上はいり、複雑に割れている
⑤破折線の方向が水平的に入っている
⑥その歯に大きな力がかかる
まとめると、歯根の素材がいい歯で単に割れているだけであれば保存の可能性はありです。
いくつか保存できた症例を提示します。どの症例も他歯科医院で抜歯と診断された歯です。
前歯が割れて接着保存治療を行った症例
症例1
初診時の状態 右上前歯が割れていて歯肉から膿が出ている状態
マイクロスコープを使用して、割れた部分の感染を除去して、接着保存を口腔内で行った
根管はMTAセメントを用いて閉鎖
割れた部分を接着し、ファイバーと樹脂で土台をいれて歯を補強
最終のセラミッククラウンを入れて1年後の状態
治療後7年経過時、どこで問題がでてもおかしくないが、現状は問題無く維持している。
症例2
治療前の状態 差し歯の入った上顎前歯が縦に割れている。
割れた歯を接着保存するために意図的に一度抜歯
割れた歯の感染部を除去して、接着処置をお口の外で行う
接着した歯をもとの位置に再植し、歯肉と縫合する事で安定をはかる
見た目を確保するために仮歯をもどす
再植後1ヶ月の状態 その後、仮歯で十分な期間をかけて様子を観察する
再植後3ヶ月の状態 歯肉からの出血、排膿など炎症はないのを確認して最終的なセラミッククラウンを装着
症例3
左上前歯の差し歯が土台ごと割れ、グラグラすると来院
割れた前歯を意図的に一度抜歯してお口の外で接着すし、再植する
再植後2ヶ月の仮歯を入れて、様子を確認。歯肉の炎症はなく、健康な状態
再植後1年後の状態、歯肉に腫れはなく健康な状態である
破折部を接着保存する方法には3つの方法があります。
①お口の中で接着する方法
②意図的に一度抜歯して、お口の外で接着処置して、再度それを植立する、再植という方法
③割れた歯の動いている欠片だけを一度抜き、それをお口の中で接着する方法
それぞれの方法に利点欠点があり、適応症例というのがあります。どの治療が適しているかは担当医に相談下さい。
次に、保存できなかった症例にを提示します。
接着保存治療を試みたがうまく行かなかった症例
前歯が割れている、残存している歯が薄いが保存の可能性があると判断、接着保存治療を試みた
残念ながら、仮歯で様子みている最中(接着治療後一ヶ月)に再度歯肉から膿みが確認。再び歯根が割れてしまった。残存している歯根は薄かったの原因と考える。
明らかに保存できない症例も提示します。
保存の治療を薦めなかった症例
残存している歯に感染があり、破折線が水平的(横方向)に複数あり、
破折している部分の感染が大きい
歯根が割れてしまっても状態が良ければ長期に接着保存できている歯はあります。『歯根が割れた=抜歯』ではありません。どれだけ長期予後が期待できるかの診断と理解が大切です。また、むやみになんでも保存を試みるという考えではなく、今後一番いい人生を送るにはどうすればいいか?と長期的にな視点で考えるべきです。
最終的に治療をどうするかは、保存治療と抜歯後の欠損治療の両方を熟知している歯科医師に直接診てもらいを相談される事をお勧めします。