差し歯をした歯の歯根破折 《差し歯のぐらつき・脱落・歯根破折》
差し歯をした歯の歯根破折
《差し歯のぐらつき・脱落・歯根破折》
差し歯した歯の歯根水平破折症例写真
差し歯とは、虫歯や外傷などによって神経を失った歯に対し、残った歯根を利用して人工の歯(ポストコア=土台、クラウン=被せ物)を装着する治療法です。構成要素は「歯根」「ポストコア」「クラウン」の3つで成り立っています。
歯根破折に至る経緯
差し歯をした歯が破折に至る典型的な流れは以下の通りです:
1. 差し歯(ポストコア+クラウン)がぐらつき始める
2. 再装着するも短期間で再びぐらつき、やがて脱落
3. 再装着を繰り返すうちに、歯根が破折を起こす
よくある原因
差し歯の脱落や歯根破折の主な原因は以下の通りです:
1. 過度な力の加わり:硬いものを噛んだ、転倒などの外傷、異常な歯ぎしりなど
2. 歯根の脆弱性:歯根が薄い・短いなど、構造的に弱い場合
3. 治療の不備:クラウンやポストコアの不適合・不適正な設計
4. 噛み合わせの問題:歯列不正などによる咬合異常、切端咬合
5. 歯根と骨の癒着:歯根が骨と癒着し、力の逃げ場がなくなることで破折しやすくなる
治療の選択肢
破折した歯の治療は大きく以下の2つに分かれます:
• 保存治療:破折した歯根を可能な限り残す方法
• 欠損治療:抜歯後にインプラント、ブリッジ、入れ歯などで補う方法
どちらを選択するかは、歯の状態、隣接歯の状況、骨量、噛み合わせ、そして患者の希望によって決定されます。
差し歯した歯の歯根破折に対しての保存治療
差し歯した歯の歯根破折には大きく2つに分類されます:
①歯根水平破折
②歯根垂直破折
①歯根水平破折に対しての保存治療

歯根が水平に破折すると、歯肉の縁よりも深い位置に歯根が残る状態となり、このままでは再び差し歯(ポストコア+クラウン)を装着することができません。無理に差し歯を装着しても、安定せず短期間で脱落してしまいます。そのため、もし歯を残して再度差し歯をしていくとなると、歯根を何らかの方法で歯肉の上に十分露出させ、差し歯が長期的に維持できる状態に整える必要があります。
歯根を露出させる方法は主に2つあります:
1. クラウンレングスニング
歯肉や周囲の骨を外科的に削除し、歯根の露出量を増やす方法。
2. エクストルージョン(矯正的挺出)
歯根を矯正的に引き上げることで、歯肉の上に歯根を出す方法。
いずれの方法を選択する場合でも、保存治療の最低条件として「健全な歯根が10mm以上残っていること」が求められます。破折位置が深く歯根の長さが不足している場合は、保存治療は適応外となり、抜歯を含む他の治療法の検討が必要です。
参考症例①
エクストルージョン法(矯正的挺出)を行い、クラウンレングス(歯周外科)
ダウエルポスト(土台)+セラミッククラウン修復法

1、術前の状態 前歯をぶつけて差し歯が脱離して同時に歯根が折れてしまった。 歯根には破折線(ひび)が認められたが炎症はなく、破折線に接着材を流し保存する事とした。(図1の状態)

2、2本の前歯に矯正用の仮歯を装着して、右の前歯をゴムで牽引して矯正的延出を行っ手いる状態の表側と裏側。
(図2の状態)

3、右の前歯が矯正的挺出が終了した状態。歯を引っ張りあげることで歯肉も一緒に上がってくる。(図3の状態)

4、歯周外科処置を行って歯肉を切除して下げた状態。(図4の状態)

5、ファイバー樹脂の土台を入れて歯を補強した状態。(図5の状態)

6、前歯2本にオールセラミッククラウンを装着した状態。(図6の状態)


②歯根垂直破折に対しての保存治療
差し歯した歯の垂直破折症例の保存治療は難しいことが多いです。ただ、破折部の感染状況においては保存治療ができる場合があります。そして、保存治療が出来たとしても今後の予後に長期性があるのかを考える必要があります。もし、長期性が期待出来るのであれば保存治療をチャレンジする事も選択枝になると思います。咬合状態や残存歯質の状態から長期性が期待出来ない場合は保存治療をあきらめて抜歯してブリッジやインプラント、入れ歯などの欠損治療を選択するのもありです。
垂直破折症例の保存する方法は2つ。
①破折部をお口の中で接着する方法
②意図的に一度抜歯して、お口の外で接着処置して再度それを元の位置に植率する、再植接着という方法
症例①破折部をお口の中で接着保存した症例
初診時の状態 右上前歯が割れていて歯肉から膿が出ている状態

マイクロスコープを使用して、割れた部分の感染を除去して、接着保存を口腔内で行った

根管はMTAセメントを用いて閉鎖
割れた部分を接着し、ファイバーと樹脂で土台をいれて歯を補強

最終のセラミッククラウンを入れて1年後の状態
治療後7年経過時、どこで問題がでてもおかしくないが、現状は問題無く維持している。
症例②垂直破折した歯を意図的に一度抜歯して、お口の外で接着処置して再度それを元の位置もどし再植を行った症例

治療前の状態 差し歯の入った上顎前歯が縦に割れている。

割れた歯を接着保存するために意図的に一度抜歯
割れた歯の感染部を除去して、接着処置をお口の外で行う

接着した歯をもとの位置に再植し、歯肉と縫合する事で安定をはかる
見た目を確保するために仮歯をもどす
再植後1ヶ月の状態 その後、仮歯で十分な期間をかけて様子を観察する

再植後3ヶ月の状態 歯肉からの出血、排膿など炎症はないのを確認して最終的なセラミッククラウンを装着
症例③垂直破折水平破折を複合している破折歯に対して、再植接着保存治療を行った症例

左上前歯の差し歯が土台ごと割れ、グラグラすると来院
割れた前歯を意図的に一度抜歯してお口の外で接着すし、再植する

再植後2ヶ月の仮歯を入れて、様子を確認。歯肉の炎症はなく、健康な状態

再植後1年後の状態、歯肉に腫れはなく健康な状態である
接着保存治療を試みたがうまく行かなかった症例
前歯部に垂直破折を確認。残存歯質が薄い。

接着保存治療を試みるも残念ながら、仮歯で様子をみている最中に歯肉から膿がでて、確認すると再び歯根が破折してしまった。残存歯質が薄かったのが原因と考える。
保存の治療を薦めなかった症例

残存している歯に感染があり、破折線が複数あり、残存歯質が薄く少ない

破折している部分の感染が大きい
エド日本橋歯科 前歯破折歯治療への取り組み
当院では、2003年の開業当初から、外傷(夜間歩行中の転倒、自転車での転倒事故、交通事故、海外旅行中での事故、スポーツ中の打撲、中高年の咀嚼破折など)で前歯を折る、かける、抜けるなどの症例を特化して治療してきました。
今まで500症例以上手掛け、すべての症例で治療前、治療中、治療後の予後の記録を残し、破折した歯をいかに歯を削らず、神経を取らずに、低侵襲で治せるかを追究してきました。
現在では、マイクロスコープ、CT、レーザー、MTAセメント、などの精密機器、最先端材料を用いて、歯の保存を第一にあらゆる可能性を考えて、より確実に、より綺麗に、より永く(長持ち)、より無駄なく(無駄に歯を削る事なく)、前歯の破折治療を行っております。

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