部分入れ歯
部分入れ歯(部分入れ歯治療を成功させるには)
部分入れ歯とは、歯を失った部分だけに入れ歯を入れて、その入れ歯を、残っている歯に金属のフックを掛けることで入れ歯を維持安定させる方法です。きちんと設計して治療をほどこせばしっかり噛めて、長期に維持できる治療法です。
部分入れ歯は構造上欠損部分の粘膜と現在ある歯により噛む力を支えます。
それゆえ、噛める部分入れ歯の成功の鍵は欠損部分の粘膜と現在ある歯へかかる噛む力の負担がバランスよくかかるような入れ歯の設計です。
もし、現在ある歯だけに負担がかかればその歯はぐらぐら揺れダメージを受け最後は抜けてしまいます。もし、粘膜だけに負担がいけば粘膜が傷ついたり、食事をすると入れ歯があたり痛いという事が起きます。長期に部分入れ歯を維持安定させるには、バランスのとれた設計して作る必要があります。 部分入れ歯の設計を正しくすることでパチンと入り、がっちり噛める入れ歯ができます。
正しい部分入れ歯の設計とは
上顎の部分入れ歯
上顎の部分入れ歯装着時
下顎の部分入れ歯装着前
下顎の部分入れ歯装着時
部分入れ歯の成功の鍵は入れ歯の設計であります。それでは、どのような事を設計目標とすればいいのでしょうか。それは以下の2つです。
1、入れ歯を装着した状態において、かみ合う力をコントロールする。
(⇒粘膜にかかる負担と歯にかかる負担を分散する事で長期的に安定をはかる)
2、食事中も、会話中も、入れ歯装着時いつも、入れ歯が動かないようにする。
(⇒入れ歯が動けばフックをかけた歯も揺さぶられて大きな負担がかかり、結果その歯に負担がかかりすぎてしまう)
この2つの目標を達成するには、フックをかける歯の形態(写真1)を工夫して作る必要があります。その他にも、入れ歯の粘膜に接する部分の形や入れ歯のフレームなど、その人に合わせた形態にすることで、入れ歯を長期的に安定させるのです。
部分入れ歯の構造的に欠損部と欠損部を連結するフレームが必要になります。このフレームは設計した残存歯の形態にカッチリと正確に適合させる必要があります。(写真2)それゆえに、フレームはメタル(金属)フレームを使用します。メタルにすることで、フレームは強度が上がり、厚みを薄くすることができます。これにより、違和感が格段に減少します。(写真3)(コバルトクロムやコゴールド、チタンなど金属の種類によって入れ歯の長期的予後が大きく変わることはありません、材質より大切なのは設計です。)
【写真1】部分入れ歯の動きを少なくし、残存歯の負担を最小限にするように設計された、歯の形態
【写真2】部分入れ歯のフックがカッチリと正確に適合した状態
【写真3】違和感を格段に減少するメタルフレーム
【写真4】コーピング処置(歯に金属のキャップを装着)この上に入れ歯をのせることで、入れ歯を支える支持となる
【写真5】部分入れ歯の人工歯に金属に置き換えた状態。これにより、人工歯の磨耗に対応
部分入れ歯の設計で悩むのが、残存歯の状態が悪いときです。例えば、歯周病や虫歯で状態が悪い歯に部分入れ歯のフックをかければ、その歯は部分入れ歯からの負荷を支えられず、長期的には不安が残ります。部分入れ歯の短所として、フックをかけた歯が喪失した際は、部分入れ歯も設計からやり直しとなり、せっかく作った入れ歯をすべて再度制作しなおす必要がでてきます。構造が複雑なのが部分入れ歯の欠点です。
部分入れ歯の長期的成功をもう一つあげるのであれば、残存歯の状態を正確に見極めるです。
それでは、フックをかけるだけしっかりしてない歯はどうしたらいいのでしょうか?その際は歯の頭をカットして、そこに金属のキャップをするといった、コーピングという方法があります。(写真4)これであれば、仮に将来その歯が問題を起こし抜歯となっても、部分入れ歯を少し修理するだけで大丈夫です。また、コーピングをすることで、粘膜の負担を減らしてより噛みやすくなります。
また、入れ歯は5年10年と長期的に使っていくと人工歯が磨耗を起こします、それを放置すると残存歯に負担がかかるので、その際は入れ歯の人工歯を金属に置き換えるなどの補修が必要となります。(写真5)
部分入れ歯の設計 症例1 上顎4本欠損症例
治療前
右上1本分、左上の3本分の歯が欠損した症例
治療後、部分入れ歯装着前
残存歯の診査を行い、適正に部分入れ歯装着のための修復処置を行った状態。
治療後、部分入れ歯装着時
右上1本分の欠損部はブリッジでも対応はできたが、部分入れ歯を安定させるためにあえてブリッジの
設計にはしなかった。両側性欠損の設計にすることで部分入れ歯の安定を計った。
【参考ページ】
歯を多数失った際の治療法、部分入れ歯とインプラントの比較
部分入れ歯が成功する症例
- 噛み合う力を前後的左右的にコントロールできる
- 食事中も会話中もたえず、入れ歯の動きを少なく安定できる
- 残存している歯が部分入れ歯の負担に耐えることができる
部分入れ歯が難しい症例
- 噛み合う力を前後的左右的にコントロールできない
⇒片側だけ欠損している - 食事中も会話中もたえず、入れ歯の動きを少なく安定できる
⇒残存している歯が非常にすくない - 残存している歯が部分入れ歯の負担に耐えることができない
⇒残存している歯の状態が歯周病や虫歯で状態が悪い
部分入れ歯に関するQ&A
- 現在、下の顎の右側のみに部分入れ歯を入れています。わりと安定していますが、どうしても入れ歯側では食事がしにくく、反対側ばかりで食事をしてしまいます。片側だけの部分入れ歯では食事をするのは難しいのでしょうか?
- 部分入れ歯を安定させるには、かみ合う力を左右的にコントロールしなければいけません。どうしても片側性の部分入れ歯は反対側が自分の歯であるために噛みごこちがいいため、より左右的バランスがとりずらく安定が得られにくいのが現実です。 安定をえるためには、左右にまたがる部分入れ歯の設計にするのがベターです。正直、片側欠損症例はインプラント治療ができればベストと考えます。どちらにせよ、片側性の部分入れ歯は長期的安定を考慮すると難症例となります。
- 最近、柔らかい素材を使い、金具(歯にかけるフック)が見えない入れ歯というのがありますが、それでしっかり食事はできるのでしょうか?
- 金具をつかわない部分入れ歯が最近でてきていますが、当院ではお勧めしておりません。 なぜなら、そういった部分入れ歯は粘膜への負担が大きく、欠損した粘膜下の骨の吸収が早くなるからです。もともと粘膜は噛む力を支えるためにできていません。骨がなくなれば、入れ歯が合わなくなりやり直しを余儀なくされ、しかも骨がない入れ歯はより難症例となり痛みがでやすくなります。負担をそこだけに求める材料での設計は構造上無理があり、短期間ではいいですが、長期的にはお勧めできません。 部分入れ歯の成功の鍵は、粘膜と現存している歯にバランスよく負担をかけることです。
部分入れ歯治療の注意点
部分入れ歯の治療はとても難しい治療です。なぜなら、部分入れ歯は構造上現在残っている歯に連結していくので、もしその歯に問題がでれば部分入れ歯自体も機能しなくなります。それゆえ、入れ歯治療だけでなく、歯周病、根管治療、かみ合わせなどの治療もも必要となります。しっかり部分入れ歯を治療をお考えであれば、入れ歯の材料を悩むのではなく、入れ歯の設計はもちろん、基本的な歯科治療が.大切です。