ブリッジ
ブリッジ治療
(前歯のブリッジ治療:歯を削らない接着ブリッジ、歯を一本だけ削るカンチレバーブリッジとは)
ブリッジとは
ブリッジとは何らかの理由で欠損した所を両隣の歯を支持として使い、欠損した所を補う治療です。
ブリッジの長所は取り外しがないため、違和感が少なく、 治療自体はシンプルである事です。ブリッジの短所は支持として用いる歯は削る必要がある事と力学的に負担がかかる事です。そのためブリッジ成功の鍵はブリッジの設計とブリッジを支持する歯の診断です。設計に無理がなければ、ブリッジ治療は長期に維持できる予知性高い治療法です。
1本欠損の3本ブリッジ
ブリッジの寿命(生存率)
日本補綴学会が2008年にまとめた、「歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン2008」によると、5つの海外からの論文(システマティックレビュー)をもとに、「1歯の中間欠損に対して,5年生存率でみると,インプラントとブリッジでは差はなく,機能的にもインプラントが有効であるというエビデンスは存在していない」とまとめている。更に、その5つの論文の一つ、スイス ベルン大学歯学部のPjeturssonらによると、世界の85本論文とまとめ分析すると、ブリッジ装着後の10年推定生存率は、ブリッジで89.2%、インプラントで86.7%と報告しています。また、ブリッジの失敗は虫歯、歯根破折、歯髄の壊死、歯周病によるものだとも述べています。
それでは、虫歯や歯根破折を起こしにくい、神経のある歯に限った場合の生存率はどうなんでしょうか、1997年にノルウェー オスロ大学Valderhaugらの論文によると、クラウンブリッジの生存率は5年で98%、10年で92%、20年で87%、25年で83%と報告している。この論文は20年以上前のもので、クラウンブリッジの精度低い事かった事が想像できますし、当時は接着の概念もありませんでした。それでも神経のある歯のクラウンブリッジの生存率が長期に高い事をしめしております。2005年に日本補綴誌に発表された報告「8020に対する歯科補綴学的文献レビュー」では世界の1985年~2003年までのクラウンブリッジの生存率の論文をまとめ評価すると、クラウンブリッジは13年経過するとトラブルが増加し、15年で約1/3、20年で約1/2が機能しなくなっていたと報告しております。これらの研究対象が35年~25年前の治療であった事考えてもこの差は大きいです。このデータの差を考えると、ブリッジを架ける歯の神経があるかないかが一つのブリッジの寿命を左右すると言えます。また、2008年の論文と比較して生存率が延びている事はクラウンブリッジの生存率は歯科治療精度や接着処理の進歩に大きく影響していると言えます。
参考文献;
「歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン2008」
Comparison of survival and complication rates of tooth-supported fixed dental prostheses (FDPs) and implant-supported FDPs and single crowns (SCs).
Pjetursson Clin Oral Implants Res. 2007;18 Suppl 3:97-113.
Assessment of the periapical and clinical status of crowned teeth over 25 years
Valderhaug Journal of dentistry 1997 Mar;25(2):97-105
実際、現在の臨床で感じるブリッジの失敗は
・ブリッジをかけた歯のどちらか一方が外れて、それに気が付かないでブリッジの歯を虫歯になる。その結果、強度が低下して歯根破折してしまう。
・咬合力に耐えられず、ブリッジを支えている歯根の破折やブリッジの脱離。
・清掃を怠り、歯周病になり、ブリッジ支持している骨の吸収、ブリッジの動揺、抜歯。
・喪失した部分の骨吸収による、審美や発音、自浄性の問題。
などが多いです。
これらを踏まえて、ブリッジ治療長期成功のポイントは以下の通りです。
長期的にブリッジ治療を成功させる、5つのポイント
- 長期に維持できる、無理のないブリッジ設計。
⇒支えとなる歯の状態やかみ合わせなどを考え、力学的に無理のないブリッジ設計をする。負荷がかかりすぎるとブリッジをした歯が悪くなってしまう。 - 支えとなる歯の評価と対応。
⇒ブリッジをかける歯が長持ちするように、神経の保存、根管治療(神経の処置)、歯の土台(ポストコア)を入れる処置、歯周病治療をしっかり行ってからブリッジをかける - 欠損となった部分の評価と対応。
⇒ブリッジの仮り歯を装着して、審美性、装着感、清掃性、発音など確認しながら治療を進める。問題があれば、歯肉移植、骨造成を考える。 - 土台(ポストコア)やブリッジの接着処理。
⇒接着処理をしっかり行うことが永続性に影響します。接着処理する事で、ブリッジの寿命は延びます。 - 治療後のセルフケアとメンテナンスクリーニング。
トラブルを起こしやすいブリッジ
ロングスパン型ブリッジ 例えば、2本欠損の4本ブリッジにおいて、4本分の力を2本で支える事になります。
ロングスパンになればなるほど支台となる歯には負担がいき、ブリッジの脱離、歯根の破折、支えとなる歯が揺れてくるなどの症状を起こしやしやすい。
延長型ブリッジ てこの力がかかり支えとなる歯に大きな力がかかりやすい。そのため、ブリッジの脱離、歯根の破折、支えている歯が揺れるなどの症状が起こしやすい。症例を見極めて適応すべき。
支台となる歯が傾斜しているブリッジ 傾斜している状態でブリッジをかけると、維持力が低下し脱離しやすい。結果的にブリッジをかけている歯が虫歯になったりする。
欠損した部位の歯肉が下がっているブリッジ 歯肉が下がっている事で見た目におかしくなる他に清掃もしにくくなり、口臭の原因にもなる。
欠損した部位の歯肉が下がっているブリッジ 隙間があるために、空気がもれて発音に問題がおこる。食物が入って違和感がでる。口臭の原因になる。
ブリッジの審美性(前歯のブリッジ)
前歯など見た目に大きく関わる部位であることから、前歯のブリッジは機能性は勿論ですが審美性も求められます。
歯の周りの骨は歯があることで維持しているので、歯を抜くと骨の吸収は必ず起こり、この事が審美性に問題をおこします。時には、抜歯した隣の歯の歯肉の退縮も起こします。そのまま、何もせずにブリッジすれば長い歯のブリッジとなり、審美性が損なわれます。
それらの問題を解決する方法として、抜歯窩保存術(ソケットプリザべーション)や骨造成術、結合組織移植術(歯肉を移植する方法)、歯列矯正を行う方法、セラミックで人工歯肉をつくる方法、などがあります。それらの方法には適応症があり、前歯という見た目に直結する場所である事から適応症を守る事はとても大切です。
どこまで、審美性を回復できるか、どんな方法で審美性を回復するかは症例によってまちまちです。前歯のブリッジでお悩みの方は、経験ある歯科医に直接状態診てもらい治療相談される事をおすすめします。
参考症例 上顎前歯部1本欠損の3本連結ブリッジ症例
セラミックブリッジ装着前 欠損となった所の歯肉には、審美性を確実に回復するために歯肉移植を前処置として行っている。
セラミックブリッジ装着時 歯肉移植を行うことで、歯を失った事がわからないような、審美的なブリッジが装着できる。
人工骨で骨造成を行ったブリッジ参考症例
1、初診時の状態
前歯の歯根が感染をおこし大学病院で抜歯されたが、骨がへこんでしまった。欠損した部位を審美的に回復希望で来院された。
以前の状態は把握していないが、無計画な抜歯がこのような結果をまねく。
2、骨造成時の写真
人工骨を補填して、人工のコラーゲン膜で覆う。欠損部には人工歯を接着させて治癒を待つ。
3、ブリッジを装着する写真
欠損部の両隣りの歯を削り、ジルコニアのブリッジを製作し、装着する。
術前と術後の写真
難易度の高い症例であったが、骨造成を行う事で自然な見た目を回復する事ができた。すべての処置をマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を用いる事でよりデリケートな処置ができるようになり、完成度の高い処置が行える。
【骨造成治療のポイント】
骨欠損の状態(大きさ、形)残存骨の状態(高さ、厚み)、残存歯の歯肉の状態(厚み、性状)、残存歯の歯周病の状態により、どこまで回復できるのかが決まります。条件がそろえば、かなり良い状態に回復でき予後も安定しています。もちろん、骨造成にも限界があります。どこまでも骨造成できるわけではありませんし何度も骨造成できるわけではありません。
骨造成でまかなえない歯肉のくぼみは歯肉移植術でまかなう事ができます。
術前にCTなどをとり、欠損部の状態を確認しておく必要があります。
歯肉移植(CTGテクニック)を行ったブリッジ参考症例(前歯ブリッジやり替え症例①)
前歯のブリッジの審美障害を主訴に来院。前歯科医院で前歯を2本抜歯してた、骨が吸収して前歯2本が長くなってしまっている。
1回目の歯肉移植で歯肉の幅を増やす移植を行った。歯肉移植によって欠損部の歯肉を再建していく。歯肉移植は合計4回行った。
2回目の歯肉移植、歯肉の幅を更に増やす手術を行った。
3回目の歯肉移植、歯肉の高さを増やす移植を行った。
4回目に左上の側切歯の根面を被覆する歯肉移植をおこなった。
4回の歯肉移植後の仮歯の状態(左写真)、その後最終のセラミックブリッジを製作(左写真)
術前の状態(左写真)と術後のセラミックブリッジが装着された状態(右写真)
ブリッジ装着から7年後の状態
臼歯部ブリッジやりかえ症例②
【歯肉移植術の治療のポイント】
歯肉は上顎口蓋部(内側)から採取します。ここの歯肉の厚みは個人差があり、質のいい歯肉をより多く採取して的確に欠損部に移植していく事がポイントとなります。とてもデリケートな処置となるので、マイクロスコープが必須となります。
抜歯窩保存術(ソケットプリザベーションテクニック)を行ったブリッジ参考症例
【抜歯窩保存術(ソケットプリザベーション)の治療のポイント】
当院が得意とするこのテクニックですが、いくつかのポイントがあります。一つは抜歯前にその歯の炎症をできるだけなくす事です。炎症が少なければ少ないほど、抜歯した部位の骨は残りやすいです。
そして次のポイントが抜歯の穴のなかの感染組織の除去を確実に行う事です。これには、かなりの時間を要しますし、マイクロスコープが必須となります。抜歯部の骨内に感染物質が残る事があるので、拡大視野にして特殊な器具を用いて確実に除去するのが、ポイントとなります。
接着ブリッジ(歯をけずらない前歯のブリッジ)とは、
通常のブリッジは両側の歯を削り、ブリッジを架けますが、接着ブリッジはほとんど歯を削ることなくどちらかの一方の隣接歯1本にリテーナーと呼ばれるウイングをつけて維持します。接着ブリッジは適応症があり、これを守る事がとても大切です。昔はメタルフレームの接着ブリッジしかありませんでしたが、近年は接着の進化と技術革新で白い色のジルコニアフレームによる接着ブリッジが可能になりました。これにより、より審美的で機能的で永続性の期待できるブリッジができるようになりました。
適応症
・力のかからない前歯部である事。
・リテーナーを架ける歯の接着面にエナメル質が残っている事。
・リテーナーの厚みが確保できる事。
・リテーナー接合部の面積が破折しないだけ十分取れる事。
・基本1本の歯で2本を支えるので、支える歯の歯根がそれを支えるだけのしっかりした歯根である事。
【参考症例1】
1、初診時の状態
黒ずんでいる左上の前歯がぐらぐらしてきて、インプラント治療を含め治療相談で来院。歯根が吸収し、保存不可と診断。
骨が細く薄いためインプラントには適さない症例であった。抜歯となる歯の隣りは無傷の歯である事とかみ合わせが前歯に負担のない状態であったため、今回は接着性ブリッジをする事とした。
2、抜歯時の写真
マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を用いて歯根を慎重に抜歯。抜歯した部分の骨がへこまないようにと抜歯と同時に人工骨を填入し、人工コラーゲン膜で蓋をし、隣の歯に人工歯を接着し治癒を待つ。
3、接着ブリッジ(セラミック)の装着の写真
隣の歯の裏側にブリッジを接着させる。歯科の接着技術の進歩でこの様な治療が可能になったが、かみ合わせや歯のポジションなど症例を見極める必要がある。
4、術前と術後の写真 接着ブリッジの治療と同時に歯のクリーニングとホワイトニングを行った。抜歯と同時に骨造成をはかることで高レベルで審美性が得ることができた。ブリッジの最大の欠点、隣の歯を削る事をしないのが接着ブリッジです。
条件がそろえば、接着性ブリッジが可能です。症例の見極めがポイントですので、担当医にご相談ください。
【参考症例2】 接着ブリッジのリテーナーの厚みを確保するために、下顎前歯部を削合した症例
術前の状態:上顎前歯部の歯根破折で抜歯となる。
接着ブリッジを装着した状態。
咬合状態から、リテーナーの厚みが確保できないため、下顎前歯部を削合した。
削合した下顎前歯部の術前(左)と術後(右)の写真。
【参考症例3】 リテーナーの接合部に十分な強度がとれず、両側リテーナーで対応した症例
1、術前の状態
患者は20代。転倒して前歯が折れた事を主訴に来院。左の前歯を1本は他医院で応急処置されている。
2、術中の写真
左上前歯は深部で水平、垂直破折を起こしていたため、保存不可能と判断した。 左上の前歯を抜歯と同時に人工骨を補填し、抜歯窩の保存を試みた。また、それと同時に仮歯を両隣の歯に接着固定している。
3、両側の接着ジルコニアセラミックス・ブリッジを製作
接着ブリッジのウイングの厚みを確保するために、両隣の裏側をわすかに削合している。
4、術後の写真
裏側から接着固定をする。今回は強度に問題があるため、まずは両側リテーナーの接着ブリッジを装着したが、通常、接着ブリッジは両側にリテーナーを設置しません。片側での接着処理が接着ブリッジを長持ちさせます。
骨の吸収を最小限にする事で、複雑な処置をしないで審美回復が行われている。 治療のポイントはジルコニアフレームの確実で強固な接着処置と抜歯窩の骨保存、そして、色調が再現されたセラミック・ブリッジの製作である。
5、術前と術後の写真の比較
カンチレバーブリッジ(歯を一本だけ削る前歯のブリッジ)とは、
通常の前歯のブリッジは前歯一本欠損に対して、両側の歯二本を削り、三本ブリッジを架けますが、カンチレバーブリッジは片側の歯一本だけ削り一本分の歯を延長させるブリッジです。カンチレバーとは、一端を固定して反対側を自由とした構造の事を意味します。カンチレバーブリッジは噛む力が大きくかからない症例が適応であり、これを守る事がとても大切です。また、前歯部に歯列不正があり、通常のブリッジが造りづらい症例、歯並びの問題や何らかの問題で接着ブリッジ適応としない場合は特に有効な治療方法になります。
適応症
・力のかからない前歯部である事。
・基本1本の歯で2本を支えるので、支える歯の歯根が、それを支えるだけのしっかりした歯根である事。
【参考症例1】
1、術前の状態
転倒して左上前歯一本が折れた事を主訴に来院。左上前歯を1本は他医院で仮歯を装着されている。
2、術中の写真
左上前歯は深部で水平、垂直破折を起こしていたため、保存不可能と判断した。 左上の前歯を抜歯と同時に人工骨を補填し、抜歯窩の保存を試みた。また、それと同時にカンチレバーブリッジの仮歯を装着。
3、ジルコニアフレームのカンチレバーブリッジを製作し、装着をした。
4術後2年目の状態。ブリッジに動揺などなく安定し、歯肉もより安定してきた。